カメラの種類と構造

カメラには様々な分類法がありますが,デジタルカメラの呼称として一般的なのは「一眼レフ」「ミラーレス」「コンパクト」の3種類です.この分類はカメラの構造によるものですが,センサーサイズによって「フルサイズ」「APS-C」「フォーサーズ(4/3)」「1インチ」「1インチ未満」などと分類することもできます.

その他,銀塩カメラも含めると,レンジファインダー,二眼レフ,ビューカメラ(いわゆる大判カメラ)などがあります.例えばライカのMシステムはレンジファインダー式のデジタルカメラです.

構造によるカメラの分類

デジタルカメラの「一眼レフ」「ミラーレス」「コンパクト」の構造の違いは,実用上では「反射式光学ファインダーがあるか」と「レンズが交換できるか」の2点と言えます.反射式光学ファインダーがあり,レンズ交換もできるのが一眼レフ,光学ファインダーを持たないが,レンズ交換ができるものがミラーレス,反射式光学ファインダーを持たず,レンズ交換もできないものがコンパクトカメラです.反射式光学ファインダーがあり,レンズ交換ができない「レンズ固定式一眼レフ」という形式もあるらしいのですが,デジタルカメラの製品はどうやら無いようです.

ただし上記の区分は,あくまでもこの3種類を区別するためのもので,それぞれの定義ではありません.例えばレンジファインダー式のカメラは上記のなかではコンパクトカメラに分類されてしまいますが,一般的にはコンパクトカメラとは区別されます.フィルムカメラには,反射式光学ファインダーを持ちレンズ交換もできるが,レンズが2つある「二眼レフ」というものや,レンズが交換できない「レンズ固定式一眼レフ」などがあります.

コンパクトカメラは必ずしも「コンパクト」ではないので,「レンズ固定式カメラ」と呼んでしまっていいように思います.ただし,あまり一般的な呼称でないのと,かつて存在したレンズ固定式一眼レフを想定した場合にややこしいので,本稿では「コンパクトカメラ」と呼ぶことにします.

コンパクトカメラとミラーレスカメラの構造と動作

コンパクトカメラとミラーレスカメラの構造

まず構造の比較的シンプルなコンパクトカメラとミラーレスカメラを見てみましょう.カメラとして最低限必要な構造は,余計な光を遮る箱(ボディ),像を結ばせるためのレンズ,光を当てる時間を調節するシャッター,像を記録するためのセンサーの4つです.通常は,それに加えて光の量を調節するための 絞 しぼ りが組み込まれています(もちろん,ちゃんとしたデジタルカメラとして完成させるには,これらに加えてファインダーなどが必要不可欠ですが,写真を撮るのに最低限必要な要素はこの4つ(絞りを入れて5つ)です).

図:コンパクトカメラとミラーレスカメラの構造

図はコンパクトカメラとミラーレスカメラの基本的な構造を表しています.上記の5つの構造が含まれていますね.図の赤い線は光線を表しています.この図では模式的に写真レンズを2枚の凸レンズで表していますが,実際にはほとんどの写真レンズは,形の異なる5枚程度以上のレンズを組み合わせて作られています.

シャッターの位置はコンパクト,ミラーレス,一眼レフの区分には無関係なのですが,コンパクトカメラではレンズの位置にある「レンズシャッター」か後述の電子シャッター,ミラーレスではセンサーの前にある「フォーカルプレーンシャッター」か後述の「電子シャッター」の場合がほとんどです.図ではミラーレスカメラで代表的な,センサーの直前に配置されたフォーカルプレーンシャッターを表しています.

また,図ではフォーカルプレーンシャッターをセンサーの上下に図示していますが,これはシャッターが開いている状態を表しています(コンパクトカメラとミラーレスカメラは,電源を入れた状態ではライブビューを実現するために,撮影直前直後以外はシャッターが常に開いています).ただし多くのコンパクトカメラや一部のミラーレスカメラにはこのような機械的シャッターは無く,センサーの動作だけでシャッターの役割を果たしているものもあります.このような仕組みは「電子シャッター」と呼ばれています.

撮影時の動作

レンズからカメラに入った光線は,まずレンズの中にある絞りの間を通ります.レンズと絞りを通った光は常にセンサーに当たっています.撮影する像の確認は,センサーに出来た像を,背面の液晶モニタや電子ファインダーに映すことで行います.

シャッターボタンを押すと,開いたシャッターが一旦閉じて,決められた時間だけ開き(センサーへの露光開始),また閉じて(露光終了),それから全開する(ファインダー像取得のため)というかなり複雑な動作をしています.このシャッターが一旦閉じた後,一定時間開いているあいだにセンサーに当たった光を記録することで,写真が撮れます.

一眼レフカメラの構造と動作

図a:一眼レフカメラの構造(フレーミング時)

図b:一眼レフカメラの構造(レリーズ時)

図は,一眼レフカメラの構造を模式的に表したものです.光学ファインダーに関係する構造が付け加えられている分,コンパクトカメラやミラーレスカメラの構造に比べて複雑な構造をしています.上のa図はファインダーから被写体を確認できる状態,下のb図はシャッターを押し,センサーに光を当てている状態を表しています.まず上のa図から説明をしましょう.

レンズと絞りを通った光は,リフレックスミラーに当たって反射し,ピントグラスに像を結びます.ピントグラスとミラーとの位置関係は,センサーとミラーとの位置関係と同等になるように調節されており,シャッターを押したときにセンサーに出来る像と同じ像が,このピントグラスに映ります.

このピントグラスに像を作った光はペンタプリズムの中で更に反射して,それをファインダーから覗くことになります.レンズを通ってできる像は被写体の上下左右が反転していますが,ミラーとペンタプリズムで反転させることにより,ファインダーからは正しい向きで像が見えます.このように,被写体から出た光をプリズムやミラー越しに見ることが出来るファインダー,つまり反射式光学ファインダーを持つことが一眼レフの特徴です.ペンタプリズムというものは聞き慣れないと思いますが,大体図のような断面を持ったガラスの塊です.一眼レフカメラの上部は独特の形をしていますが,これはこのペンタプリズムの形です(ただし,比較的安価な一眼レフでは,このペンタプリズムの代わりに鏡を組み合わせたペンタミラーというものを使っていることが多いようです).

この状態でシャッターボタンを押すとリフレックスミラーが上に跳ね上がり,下のb図の状態になります.するとレンズを通った光はシャッターに当たり,このシャッターを開けるとセンサーに像ができ,これを記録することで写真に写るというわけです.ちなみに,このときセンサーに写る像は上下左右が反転していますが,データとして記録する時に向きを直しています.

図ではコンパクトカメラの模式図と同様に,フォーカルプレーンシャッターを図示していますが,一眼レフのシャッターにもレンズシャッターが使われることもあり得ます.ただし,2019年現在そのような製品は無いようです.

では,これらの違いが撮影に及ぼす影響を考えてみましょう.

一眼レフとミラーレス、コンパクトとの違い

パララックス

フィルム時代のコンパクトカメラやレンジファインダー式カメラには(当然ですが)液晶モニタは付属せず,カメラのどこかに小さなのぞき穴のようなものがついていて,撮影時にはそこから直接被写体をみながらシャッターを押していました.ところが,こののぞき穴はもちろん撮影のためのレンズとはちょっと離れた位置につけざるを得ないので,のぞき穴から見える風景とレンズを通してフィルムに写る風景は,どうしても若干ずれてしまいます(この「ずれ」のことを「パララックス」と呼びます).特にカメラからの距離が短い被写体では,この影響は大きくなります.さらにレンズの直前に障害物があってものぞき穴からは見えないので,レンズキャップをしたまま撮影してしまったり,指やストラップが写り込むという現象は,初心者にありがちな失敗としてよく笑い話になっていました.

一眼レフに使われている反射式光学ファインダーは,この「パララックス」を無くすための工夫から生まれた仕組みです.前述の通り,一眼レフカメラではファインダーを覗くとピントグラスに映った像を見ることが出来ます.そしてピントグラス上の像は,シャッターを切ったときにセンサー上にできる像と同等になるように設計されています.つまり,一眼レフのファインダーをのぞくと,シャッターを押したときにセンサーにできる像と,ほぼ同じものをみることができるのです.もちろんレンズの直前に障害物があっても,ファインダーから見えるので,キャップをしたまま撮影などという失敗は起こりません.

というのが,フィルム時代の一眼レフのファインダーの大きな利点だったのですが,現在は事情が変わります.現在はフィルムの代わりにセンサーを使っているので,コンパクトカメラの(もちろんミラーレスや一眼レフでも)液晶モニタや電子ビューファインダーには,そのセンサーに写った像がそのまま表示されます.なので,このパララックスの有無の違いはもう解消されてしまいました.

電子ビューファインダー(EVF)

電子ビューファインダ(EVF)の利点はパララックスを解消できるだけではありません.EVFで見られる像は本当にセンサーにできている像なので,光学ファインダーで見られる像よりも,より撮影される写真に近いこと,露出補正などの効果をファインダーに反映できること,またヒストグラムやフォーカスピーキング(マニュアルフォーカス時にピントが合っている部分を表示する機能),電子水準器など,より多くの情報を表示させることが可能であることなどが長所です.

ただし,現状では液晶モニタやEVFは,完全に光学式ファインダーを置き換えてはいません.例えば光学式ファインダーでは被写体の姿を当然リアルタイムで見ることができますが,EVFはセンサーで受け取った光をモニターに表示する間に,画像処理を挟む必要があるので,原理的にどうしても光学式ファインダーより反応が遅くなります.これは特にタイミングにシビアなスポーツ撮影などでは問題になることがあります.鮮明さにおいてもEVFにはまだ改良の余地があり,見やすさと早さの点では光学式の方がまだ優れているといえます.またEVFは当然電力を消費するので,カメラのバッテリーライフにも影響は避けられません.

位相差式オートフォーカス

反射式光学ファインダーを採用することのもう1つの利点は,位相差式オートフォーカスを使いやすいことです.デジタルカメラのオートフォーカスの仕組みは大きく分けて「位相差式」と「コントラスト式」の2種類あります.位相差式とは大雑把に言えば距離計を使ったピント合わせで,被写体までの距離を測り,その距離でピントが合うようにレンズをいっぺんに動かす方式です.コントラスト式とは,レンズを少しずつ動かして,動かす前後でどちらが鮮明かを比較し,より鮮明に画像が写る位置を探していく方式です.試行錯誤でレンズを前後に動かしては比較するので,比較的時間が掛かりますが,実際にピントが合っていることを確認するので正確です.つまり位相差式の方がピントが合うまでの時間が短く,コントラスト式の方がピントの精度が高いという特徴があります.2つの方式のピントの精度の差はあまりないのに対し,ピントが合うまでの時間は位相差式の方が明確に早くしやすいので,特に動く被写体の撮影には位相差式の方が有利です.位相差式オートフォーカスの機構は反射式光学ファインダーを利用しているので,反射式光学ファインダーを採用した一眼レフは,コントラスト式を使用したコンパクトカメラやミラーレスカメラよりピントが合うのが早い傾向があるのです.

ただし,こちらもセンサーに位相差式オートフォーカスの機構を組み込む「像面位相差式」という仕組みが開発されており,反射式光学ファインダーの優位性も曖昧になってきました.独立式のオートフォーカスセンサーはピント合わせができる範囲が,画面周辺部分をカバーしにくい一方,像面位相差式では,ほぼ画面全域でピント合わせができるという利点もあります.像面位相差式オートフォーカス機構を組み込んだセンサーは仕組み上,若干画質が落ちることになっていますが,2019年現在ではほとんど分からないレベルになっています.

レンズ交換

もう一つの重要なポイント,レンズ交換は撮れる写真のバリエーションを確保する上で,非常に重要な要素です.広角,標準,望遠だけでなく,魚眼レンズやシフトレンズ,マクロレンズなど様々なレンズを駆使することで,同じ被写体を撮影するにしても幅広い表現が可能になります.

とはいえ,最近のコンパクトカメラにはズーム機能がまず間違いなくついており,基本的な撮影に必要な画角はカバーできますし,一眼レフユーザーでも,そうそう高価なレンズを揃えられません.魚眼レンズ,シフトレンズ,マクロレンズを持っている人はそんなにたくさんはいないでしょう.最初に買ったキットレンズしか使わない方も多いのではないでしょうか?

そう考えると,フィルム時代と比べて一眼レフとコンパクトカメラの差はずいぶん縮まっているように思えます.とくに2013年頃から,高性能のコンパクトカメラが次々と発表されました.ある部分では使い勝手を犠牲にしている部分は確かにあるのですが,レンズとセンサーの性能を考慮して最高の性能を発揮するように設計でき,位置関係をより精密に製造できるコンパクトカメラの方が,特定の条件に限れば画質面で有利ともいえます.

画質の違い

一眼レフとミラーレス,コンパクトカメラに原理的な画質の優劣はありません.同等の性能を持ったレンズとセンサーを備えていれば,どの方式でも同等の画質の写真を撮ることができます.むしろ,レンズとセンサーが同等ならばシステム全体を統合して設計でき,組み立て精度も確保しやすいコンパクトカメラの方が画質がよくなることも考えられます.

本質的に画質に影響を与えるもののうち,最大の要素は一眼レフかコンパクトかという方式の違いでは無く,センサーサイズであると言えるでしょう.コンパクトカメラには小さいセンサーが,一眼レフには大きいセンサーが搭載されているケースが多いため,一眼レフの画質が良い傾向がありますが,それはカメラの方式の違いとは別の要因に寄るものです.センサーサイズと写真の関係については,後の章で詳しく解説します.

Riding Nowhere

どうして写真には、ピントが合っている部分とぼけている部分があるんだろう?

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